2020年04月15日
新型ウイルス
研究員
芳賀 裕理
政府が2020年4月8日に発令した緊急事態宣言を受け、東京など7都府県では密閉、密集、密接の「3つの密」の回避が本格化したが、住民の外出自粛や飲食店の営業時間短縮などの要請にとどまる。最低限の経済活動を維持した上で、新型コロナウイルスのオーバーシュート(爆発的患者急増)を回避しようという考えだ。
一方、欧米はロックダウン(都市封鎖)という強硬措置も辞さず、戦後最悪の「見えない敵」と闘う。こうした中、4月3日付の米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は世界的に大流行した1918年の「スペイン風邪」を教訓にしながら、パンデミック(=世界的流行)に対して当局が長期にわたり、あるいは早期に介入するほど、感染者の死亡率を低く抑えられると指摘する。また、そのほうが雇用も早期回復を期待できるという。
NYTによると、ミネアポリス(ミネソタ州)でスペイン風邪による死者が最初に報告されたのは1918年の秋。当局は迅速に動き、市を封鎖。10月12日には学校や教会、劇場、遊興施設を閉鎖した。ところがミシシッピ川の対岸にあるセントポール(同)では、当局者が感染症は制御下にあるという自信を持ち、11月に入ってもほとんどの施設が通常通り開いていた。ミネアポリスから遅れること3週間、セントポールも都市封鎖を余儀なくされ、ミネアポリスの死亡率はセントポールより格段に低くなった。
次に、NYTは米連邦準備制度理事会(FRB)やマサチューセッツ工科大(MIT)の学者による最新研究を紹介。それによると、1918年当時は早期かつ長期に介入(=集会禁止や学校閉鎖など)を実施した都市ほど、経済が長期悪化する事態を回避できた。実際、こうした都市では製造業の雇用・生産や銀行資産が1919年以降の数年間で比較的大幅に増加した。
NYTは「この論理が正しい理由を考えることはさほど難しくない」と主張。その上で、「これと同じ論理に対し、今日の政治家やコメンテーターは疑問符を付ける。(彼らは)新型ウイルス対策のソーシャル・ディスタンシング(=社会的距離の確保)が、ビジネスの休業や未曽有(みぞう)の失業というコストに見合わない可能性があると危惧するのだ」と指摘する。
前述した最新研究は、ミネアポリスとセントポールのほかにも、類似都市の比較を行った。例えば、当時、ロサンゼルス(カリフォルニア州)は早い段階で非常事態を宣言し、すべての集会を禁止した。一方、サンフランシスコ(同)は公共の場で住民のマスク着用を重視したが、結果的に効果がなかった。ピッツバーグ(ペンシルベニア州)は同じ東部の工業都市クリーブランド(オハイオ州)に比べ、学校閉鎖が遅れて長期化したため、事態の悪化を招いたという。
NYTはこうした1918年からの教訓は恐らく今も有効だと指摘する。すなわち、「経済を真に悪化させるのはパンデミックであり、それを何とか封じ込めようという、われわれの対策ではない」-
スペイン風邪による死者数の類似都市比較
(出所)ニューヨーク・タイムズ
製造業雇用者数の増加率(1914~1919年)
(出所)ニューヨーク・タイムズ
芳賀 裕理